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マーガレッタさんはたいていいつもその場所にいて、まるで自分の休憩時間を知っているようで、彼女と休憩時間に話をするのが日課になっていたある日。
いつものように、オークの樹の下に向かう自分の両手には、山のような本が抱えられていた。
若干ふくれっ面なのは、ご機嫌斜めな証拠だ。
そんな俺にマーガレッタさ「せくらさん?」
一瞬ぼんやりした俺を守門が心配そうに覗く。
「あ、いや。ちょっと昔のことを思い出したんだ」
まだ自分がアコライトだった頃の事
胸元で揺れる小さなクロスに無意識で指を絡めれば
「そういえば、せくらさん出会った時からそれしてますよね?装備品っていうわけでもなさそうだし、アイテムなんですか?」
「アイテムっていうか、これはお守りみたいなものなんだ、ある人に貰ったものでさ」
ああ、何でだろう?
今日はやけにあの人のことを思い出す
「あの人って?」
興味津々で聞き返す相方
「何?気になる?」
いたずらっぽく聞けば
「はい、きになります」
素直に答えるギロチンクロス
「じゃあ、ちょっと長い話になるけど……」
そういって、朝食の支度をしながら話し始めた
子猫事件のあとも、俺はちょくちょく時間があれば裏庭のオークの樹の下に行くようになった。
んはいつもと変わらない笑顔で
「今日は、せくら」
と声をかける。
「こんにちは、マーガレッタさん」
マーガレッタさんには、申し訳ないと思いながらもむっつりとした表情を変えることができない。
「どうしたの?それ?」
俺の表情や雰囲気に対しては何も言わず、彼女は手の中の大量の本を指して聞いてきた。
「先輩に出された宿題なんです」
若干愚痴も込めて聞いてほしかったので、ため息交じりにそう答える
アコライトは、プリーストになる前に先輩について一定期間の修行をする、その期間の間、通常のお勤め+先輩プリーストが出す様々な問題やお勤めをこなし、その受け持ちの先輩が一人前と認めてくれれば晴れてプリースト試験を受けることができるのだ。
言ってしまえば、その先輩プリーストによって今後の自分の支援スキルなどのっ方向性が決まってくるといっても過言ではない。
支援型で方向の決まりかけている自分だが、いつまでたっても自分の担当をしてくれている先輩プリーストは試験を受けることを許可してくれない。
同期でアコライトになった仲間はもう、どんどんとプリーストとなり上級の冒険者たちとパーティーを組み更に腕を磨いている。
自分だけがいつまでも、教会の下っ端のままだった。
「先輩は自分の事が嫌いなのかもしれません」
マーガレッタさんの横に腰を下ろし、彼女と自分の間に借りた本を積み上げそれを見つめれば自然と、思いが口を滑る。
自分の事が嫌いだから、なかなか認めてくれないのではないか?
最近そんな気持ちが芽生え始めていた。
「どうして?」
キョトンとした表情で自分をみるマーガレッタさん。
そのエメラルドのような瞳をみていたら、心のなかのくしゃくしゃした何かが解けて、つい言葉を零してしまう。
「だって、自分の動機はとっくにプリーストになってて、それなのに僕はいつまでたってもアコライトのままで役立たずだし、先輩に試験を受けさせてくださいって言えば、お前はまだまだだから駄目だって言うんです」
さわさわと鳴る梢の音。
じんわりと目の奥が熱くなって、涙が零れそうになるのを、できるだけ目を開いて堪えた。
さすがにここで泣くのは格好悪すぎる。
マーガレッタさんはしばらく黙ってから
「せくらの冒険者証を見せてもらっていいかな?」
マーガレッタさんに言われるままに、冒険者になったときに配布されたそれを見せた。
懐中時計型のそれには、様々な情報が詰め込まれている。
例えば、、ギルドに所属すればギルドチャットが使え狩りに行くときにパーティーを組めばパーティー間の会話ができ、又倉庫の鍵や、自分の身分証明書、ステータスなどを表示されていた。
暫くそれを見ていた彼女は、冒険者証を返してくれた
「その先輩ってどんな人?」
マーガレッタさんは首をかしげながら問いかける。
「ノア先輩の事ですか?」
俺は急に尋ねられたので思わず名前を出してしまった。
名前を聞いたところで、マーガレッタさんが知るはずないよな、と思っていれば、その反応は意外で、その名前を聞いた彼女は嬉しそうに聞き返した
「せくらの先輩は、ノア君なの?」
若干驚きながらも、答える
「はい、傍若無人で人の話は聞かなくて、いつも司教様や大司教様に怒られてばかりのノア先輩……いや、マグノリア先輩です」
本人は木蓮という花を意味する、マグノリアのいう名前が好きではないらしく、周囲にノアという略称を定着させているが、あえて本人確認のために本名を出す。
「そっか、ノア君が……。彼がもうアコちゃんを任されるようになったんだね」
感慨深そうに、そして嬉しそうにマーガレッタさんは言う