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「もしかしてマーガレッタさんは、ノア先輩を知っているんですか?」
疑問をそのまま口にすれば、軽やかな笑顔で答えられた
「もちろん!よく知っているわ!」
もしかして、ノア先輩の後見人の先輩が、実はマーガレッタさん?!
だとしたら僕は先輩の先輩に話を聞いていることになる!
一瞬の興奮はすぐに終了した
「あ、せくら。ノア君の先輩が私じゃないかって思ってるでしょう?」
こくりと頷き
「はい、違うんですか?」
「残念」
ふふふ、っと悪戯が成功した時のような顔で笑う、マーガレッタさん
「違うのよ、私はノア君の先輩とライバルですごく仲が良かったの」
笑いながら答えを言う
「アシェって言ってね、そういえば、せくらによく似てたなぁ、銀の髪とか青い目とかと見た目が、雰囲気はせくらのほうがしっかりしてそうだけどね」
「僕に似た人ですか?」
「うん、ノア君はアシェの事が大好きだったの、だからアシェにそっつくりなせくらの事が嫌いなはずないわ」
「そうでしょうか」
そうは言われても納得はできない、そもそも、自分はそのアシェという人を知らないのだ。
「それに、多分ノア君は自分の持ってる技術をせくらに教えたいんだと思うわ、今のせくらのステータス見せてもらったけど、魔法詠唱の早いタイプになると思う、アシェもそういう子だったから」
「でも、これ全部を覚えて最短で詠唱のできる聖歌に組み替えろなんて無茶です」
山積みにされた本を見て、再びため息をつく。
もちろん、ヒールや速度増加、ブレッシング等基本的な物であればアコライトの中では自分は群を抜いて早い、だが先輩のわたしてきた本のなかには、本来アコライトが修行するものではない、プリーストになってから覚えるであろう聖歌が多く含まれていて、そのなかに退魔用のマグヌスエクソシズムまであった。
先輩自体は退魔型プリーストではない、なぜ自分にこれを読めと伝授するのか分からなかった。
そんな風に困惑する俺をみて、マーガレッタさんはいたずらっ子がするような目で立ち上がり、スカートの裾を翻して俺の前に立ち
「見てて!」
彼女がポケットから青石をいくつか取り出し、かざせば途端に青く光りだす。
詠唱が始まっているのだと気が付いたのは、地面に輝く魔法陣が広がった時。
と、同時に光の泉が地面に広がる。
先ほどまでここに本を抱えて歩いてきて削られた体力が癒される。
いくつもの魔法を瞬時に詠唱し終えていた。
まるで、詠唱時間ゼロに感じさせる技術。
目を見張り、彼女を見た。
「すごいです!マーガレッタさん!」
「ふふ……これぐらいはノア君も出来るはずなのよ?」
「えっ?!あんなチャランポランなひとが?!」
「ノア君は、修行の途中でアシェが亡くなってしまったから、ほぼ独学でそこまで覚えたのよ、ノア君の仕込みなら何も問題はないわ」
「でも……」
自分は何だか納得がいかなくて、どうせなら彼女に教えてもらいたい気持ちになっていた。
しかし、彼女は
「楽しみだなあ、せくらが一人前になったら私と一緒に色々な遺跡やダンジョンを巡るパーティーに入ろうね!」
うきうきと将来について話し出す彼女。
自分は、小さくため息をついて
「僕も、マーガレッタさんみたいになれますか?」
「ん?」
「そんな風に、貴方みたいに立派なプリーストになれるでしょうか?」
「私は、別に立派ではないのよ?
ただ、楽しいことを楽しむようにしているだけ、どんな時でもどんな状況でも、私がみんなを助けるの」
それは、自信に満ちた言葉
「それに、今日せくらに会えてよかった」
「え?」
「私又、暫く調査の依頼が来てプロンテラから離れるの」
「調査って……今度はどこに行くんですか?」
「今回はちょっと遠く、シュバルツバルド共和国のリヒタルゼンという都市なの」
「リヒタルゼン?」
聞いたことのない都市だった。
「あまり、良くない噂が出ているみたいなの……」
その時、明るい笑顔が曇る
「町の人が……次々に消えていくとか、ルーンミッドガッツからの冒険者も何人も行方不明になっているとか……」
「えっ?!そんなところに行って大丈夫なんですか?!僕が心配すれば」
ぱっと顔を上げて、先ほどの表情は嘘であったかのように
「大丈夫よ!私の相方は最強なんだから!聞いたことない?カトリーヌっていう優秀なハイウィザードなんだから!」
勿論、私もね!
と、マーガレッタさんは笑って言った。
「でも……」
まだ心配な自分に彼女は、んー……と人差し指を顎に当て、そうだ!と両手をたたき
法衣の裾から、一冊の聖書を取り出し
「じゃあ、私からも宿題をだしていくわ!、私が帰ってくるまでにマスターしておいてね?」
そういって手渡された、本の表紙を見れば
「マーガレッタさんこれ、そのⅠってなってるということは、そのⅡがあるんですか?」
そう問いかければ、彼女は笑顔で頷く
「続きはせくらがそれをマスターして、私に再開したときに貸してあげる!」
そして彼女は、自分が首からかけていたロザリオを僕の首にかけ
「せくらに多くの幸があらんことを!」
そう言って笑い、そして彼女は旅立ったのだ。
一冊の本とロザリオを残して。
それから僕は、毎日のお勤めとノア先輩からの宿題にと、日々をが忙しくな不がれていく中にマーガレッタさんのことは忘れてしまっていたのだ。
「そういえば、あれから全然彼女の話を聞かないけれど、どうしているのかなあ」
今はもうアコライトではなく、アークビショップとして彼女よりも高い地位に立つ自分。
あの頃託された宿題も、今では理解できていた。
久々に、あのオークの樹の庭にでも行ってみようか……。
などと考えながら、夕食の片づけも終わり、紅茶をいれていると目の前の守門が険しい顔をしていた。
「何?俺の思い出話でなんでそんな険しい顔してるんだよ」
俺が頭の羽を揺らしながら聞けば
守門はその赤い瞳を細めて、重苦しい表情で俺を見た
「せくらさん……リヒタルゼンっていいました?」
「ああ、大昔だったから聞き間違いだったかもしれないけど、たしかリヒタルゼンっていってたとおもうぞ」
「……そのリヒタルゼンで消息を絶っていると言われて調査対象となっている、冒険者の方の中に、その、マーガレッタさんの名前があったかもしれないです」