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この人の噂は、新入りのアコライトの中でも有名だった。
破天荒の問題児、だけど大聖堂で語られる様々な古い聖歌を歌い奇跡の御業を扱える数少ないハイプリースト
今はプロンテラ騎士団からの要望に応え凄腕の冒険者とパーティーを組んで様々なダンジョンの視察や探索に協力していると聞く。
そんなエリートともいえる彼女がなぜこんな処で涎を垂らして寝ているのか?
辺りを見渡せば、雑草と呼べそうな草はほとんど生えておらず、奇麗に整えられている。
今日のお勤めはどうしたものだろうか?
この人は何でこんなところで寝てるんだろう?
様々な疑問が頭をよぎり、つい声をかけてしまった
「あの。ここで何をしているんですか?」
どうやら自分の声は彼女の耳に届いたらしく、その瞳が開かれれば、湖畔を移したような奇麗なグリーンの瞳が、自分を映していた。
「あれ?天国?」
寝ぼけたような彼女は、法衣の袖で口元から垂れていたよだれをふきながら辺りを見渡す。
「天国じゃないです、マーガレッタ・ソリンさん」
自分が名前を呼べば、彼女は目をパチクリとさせて聞いてきた。
「どうして君が私の名前をしっているの?君は誰?」
どこかで会ってたっけ?とこ首をかしげる彼女に、否定をする
「自分は、せくらっていいます。マーガレッタさんに直接お会いしたことはありません、初対面ですけど、マーガレッタさんのお噂は僕たちアコライトにも有名ですから」
「噂?」
かばっと起き上がりこちらを見つめる
「噂ってどんな噂?!」
破天荒で…と続けようとしたとき、子猫の泣き声が聞こえた。
マーガレッタさんはきょろきょろと周囲を見渡せば、その声は自分たちが今立つ大きなオークの樹の上からであった。
「あら、降りれなくなっちゃったの?」
彼女はそういうと、法衣のスカートの裾をまくる
「!えっ!!何してるんですか?!」
慌てて止めようとするが
「何って、あの子助けないと、きっと自分で降りられなくなっちゃったのよ」
言いながら、するすると彼女は木の上に登って行ってしまった。
そして、今現在である。
木の上で泣く子猫をつかんで、彼女はダイブした!
「ちょっ?!まあああああっ?!!!」
自分の悲鳴に似た声が裏庭に響き渡る。
まあ、結果から言うと彼女も猫も無事だった。
着地に失敗したものの、子猫だけは無事に助けて、擦り傷だらけになった彼女に自分は覚えたばかりの癒しの魔法をありったけかけた。
「ありがと、もう大丈夫だよ?」
本当にありったけの癒しの魔法をかけて、息切れしている
覚えたばかりのアコライトの癒しの技をかけてもらうより、自分でぱぱっとヒールした方がきっと痛みも回復も早かっただろうに、自分の癒しの魔法を止めることなく受けてくれた。
優しい人だと気が付いたのは、少し座って精神力が回復した頃
静かに黙って横に座る彼女に、なんとなく聞いてみたのは、本当につまらない事
「あの」
「ん?」
自分の問いかけに、彼女は小首をかしげて聞き返す。
「ここ、この場所。もっと草ボーボーで廃墟みたいになってたと思うんですけど
どうしてこんなに奇麗なんでしょうか?」
「ああ、ここは私の大好きな場所なの、私が大聖堂に入ったときからこっそり過ごす秘密の隠れ家みたいな場所で、この大きなオークの樹も私のお気に入りのお昼寝場所なの、数年ぶりにプロンテラに戻ったら草がたくさん生えてたから、ちょちょっと刈り取ってみたのよ」
と、法衣の袖から魔法を凝縮したスクロールと呼ばれる羊皮紙を見せてくれる。
そこには、風の魔法と大地の魔法、炎の魔法があり、多分風の魔法で雑草を刈り取り、炎で焼いて、大地に戻したのだと予想された。
「うん、だからせくらの仕事も今日はもう終わり、ねえ。それより聞かせて!」
「な、何を?」
「私の噂!アコライト君たちの中で、私はどんな風に噂になっているの?」
だから、そういうところが破天荒だって噂になっているんです……
多分自分はそう言った。
そういったはずが、言葉にならなかった。
何故なら……。
さわさわと響く葉擦れの音
瞼の上に落ちてくるはまぶしい朝日と、涼やかな川の流れる音で、意識が浮上する
ぼんやりとした視界に広がるのは、深い緑の木々
しかし、大きなオークの樹ではなく、まだ若い枝葉を連ねる小さな林と、すぐ側に流れるのは奇麗な小川の水
そう、ここは大聖堂の大きな裏庭ではない。
首都プロンテラから西に少しいった、郊外の川の側
初心者向けのダンジョンやカプラコーポレーションのサービスも受けられる小さな集落弛。
自分はここを拠点とする小さなギルド『はっぴーらいふ』のマスターをしている
アークビショップのせくら。
朝日を受けて柔らかく光るシルバーブロンドと空色の瞳、トレードマークの銀髪の上にふわふわと揺れるのはお気に入りの真っ白な天使のHB
「うーーーーん……」
軽く伸びをして起き上がれば、すぐ横で眠っていたギロチンクロスが目を覚ましたようで起き上がった
「おはようございます、せくらさん」
「ん、おはよう」
俺はそのまま目の前の小川に頭を突っ込んで顔を洗う
「ぷはーーーー!」
ぶるぶると頭を振り回せば、銀色の髪が水しぶきを飛ばした。
「もーせくらさん、何でそう大雑把なのかなあ」
見た目だけは人形みたいなのに
などと文句を言いながらタオルをわたしてくれたギロチンクロスは昔ノービス時代にうろうろしていた処を拾ったところ、いつもまにやら俺に追いつき追い越しして三次職のギロチンクロスに育ってしまった。
ギロチンクロスのくせに赤い髪に一房白髪、っていう派手な見た目の上目の色まで赤いっていう、忍気が全くない見た目の暗殺者。
「そういえば、せくらさん寝言言ってましたよ?」
「寝言?」
「あんまりよく聞き取れなかったんですけど、破天荒がどうとか?」
「破天荒……」
その単語で、先ほどの夢のワンシーンを思い出す。
ざざっと
たまり場の木の葉が風になびいた。
まるで、夢の中のオークの幹が自分に囁いたように